EU サイバーレジリエンス法(CRA)の報告義務:日本の小さなソフト会社の最小の手順
EU でソフトを売っていると、2026年9月11日から、「実際に悪用された脆弱性」か「製品の安全に関わる重大な事故」に気づいたら 24時間以内に EU の窓口へ第一報を出す義務があります。前から売っている製品も対象です。Lesstep は JetBrains Marketplace で IDE のプラグインを売る日本の小さな作り手で、自分のためにこの手順を作りました。その手順と雛形を、そのまま載せます。
法律の助言ではありません。Lesstep が条文と欧州委員会の手引きを読んで、自分の製品に当てはめた記録です。条文の番号と期限は2026年10月28日に確かめました。誤りのご指摘は support@lesstep.com へ。
当たるかどうか(3つの問い)
- 自分の名前で売っているか:ソフトを作り(作らせ)、自分の名前か商標で出す人は「製造者」です。有料でも無料でも同じです(第3条(13))。
- ソフトか、その部品か:ソフトも、別に売られるソフトの部品も「デジタル要素を持つ製品」です(第3条(1))。IDE のプラグインもここに入ると Lesstep は読みました。
- EU で商業活動として出しているか:有料で EU の利用者に届いていれば当たります(第3条(22))。マーケットプレイスが代わりに売っていても、作り手は製造者のままです。
報告の義務(第14条)は2026年9月11日から(第71条2項)で、2027年12月より前に出した製品にも掛かります(第69条3項)。ほかの義務の多くは2027年12月11日からです。
報告が要るのは2つだけ
- 実際に悪用された脆弱性:悪意のある者が、持ち主の許可なく使った確かな証拠がある物(第3条(42))。外部の人から報告が届いただけ、自分で見つけただけの脆弱性は当たりません。直した版を出せば足ります。
- 製品の安全に関わる重大な事故:大事なデータや機能の可用性・真正性・完全性・機密性を損なう(損ないうる)事故か、悪いコードが製品に入る・動く事故(第14条5項)。小さな作り手で起きやすいのは、配布のアカウントやビルドの PC を乗っ取られて、悪い版が出回る形です。
期限(気づいた時から数える)
| 悪用された脆弱性 | 重大な事故 | |
|---|---|---|
| 24時間 | 早期警告(製品を出している EU の国) | 早期警告(不正・悪意の疑いがあるか) |
| 72時間 | 通知(中身・悪用のされ方・手当て・利用者がすること) | 通知(中身・最初の見立て・手当て) |
| 最終報告 | 直し(か手当て)が出てから14日以内 | 72時間の通知から1か月以内 |
あわせて、影響を受ける利用者に、脆弱性か事故と、取れる手当てを知らせます。できれば機械で読める形で(第14条8項)。
届け先
- ENISA の単一報告窓口(CRA Single Reporting Platform)から、画面で出します。入るには多要素認証つきの EU Login が要ります。
- ENISA は、アカウントの登録は報告が要る時にするよう案内しています。登録の後に CSIRT が確かめますが、確かめ終わる前でも報告は出せます(ENISA の登録の案内)。EU Login のアカウント(多要素認証つき)は前もって作っておけます。前もって決めておくのは「誰が登録して出すか」です。
- 宛先の CSIRT は、EU に拠点が無い作り手では第14条7項の順で決まります:EU の代理人がいる国 → 輸入者の国 → 販売者の国 → 利用者が一番多い国。各国の CSIRT は ENISA の一覧にあります。ENISA の FAQ は、違う CSIRT を選ぶと報告が無効になり、出し直しになることがあると書いています。
- Lesstep の場合:代理人は置いていません。プラグインは JetBrains s.r.o.(プラハ)が再販しているので、輸入者か販売者に当たるのはチェコと読み、チェコの CSIRT を選ぶことにしました。JetBrains は自分がどちらに当たるかを書いていないので、報告にはこの理由も書きます。
罰金と小さい会社
- 第14条の違反は、最大1,500万ユーロか、世界の年間売上の2.5%の高い方です(第64条2項)。
- 零細・小企業は、24時間の早期警告に遅れた分だけ罰金の対象外です(第64条10項(a))。72時間の通知と最終報告は対象のままです。
- 額を決める時は、会社の大きさも考えます(第64条5項)。
雛形1:起きた時の手順
- 気づいた時刻を記録する。24時間はここから数える。報告が届いたら、まず悪用の証拠があるかを聞き返す。
- 1時間以内に、上の2つのどちらかに当たるかを決める。どちらでもなければ、ふつうに直した版を出して終わり。
- 当たる時は、早期警告の下書きを作り、出す人(EU Login を持つ人)に渡す。深い調べを待たずに出す。
- 直した版を最優先で出す。悪い版が出回った時は、配布のアカウントの合言葉と鍵を替え、マーケットプレイスに止めてもらう。
- 72時間以内に通知を出す。
- 利用者に知らせる:自分のサイトのセキュリティのページにお知らせを1件、直した版の変更点に1行。
- 最終報告を出す(脆弱性は直しから14日以内、事故は通知から1か月以内)。
雛形2:早期警告の下書きに用意しておく物
ENISA の FAQ によると、24時間の早期警告では要らず、72時間の通知で必須になる欄があります(欄ごとの必須は窓口の用語集にあります)。早期警告の下書きには、次の物を先に用意しておきます。
- 通知の種類(脆弱性か事故か)と段階(早期警告)
- 題と要約
- 製造者の名前
- 製品の名前と版
- 気づいた日時
- 事故なら、不正・悪意の疑いがあるか
雛形3:連絡の受け口(security.txt)
悪用に早く気づけるよう、脆弱性の連絡先をサイトに置きます。/.well-known/security.txt は、RFC 9116 で決まっている形です。Lesstep のもの:
Contact: mailto:support@lesstep.com
Expires: 2027-04-25T00:00:00Z
Preferred-Languages: en, ja
Canonical: https://lesstep.com/.well-known/security.txt
Policy: https://lesstep.com/security/
Expires は必須で、1年より先にしないことが勧められています。Lesstep はサイトを出すたびに180日先へ書き直す仕組みにしました。日付を覚えておく人が要りません。Policy の先がセキュリティのページです(知らせ方・書いてほしいこと・お知らせの一覧)。
2027年12月11日に増える物(洗い出しだけ)
- 設計の要件(附属書 I 第1部):既定で安全、既知の悪用できる脆弱性が無い状態で出す、安全な更新の仕組み、など。
- 脆弱性の扱い(附属書 I 第2部):SBOM(使っている部品の一覧)、脆弱性の受け付けと公開の方針、安全の更新を無料で出す、お知らせ。
- サポート期間を決めて示す(第13条・原則5年以上)。
- 技術文書(附属書 VII)と、10年の保管。
- 適合性の評価(ほとんどのソフトは自己評価で足りる区分)、EU 適合宣言、CE マーク。
- 利用者向けの情報(附属書 II)。
マーケットプレイスは輸入者か販売者として CE マークなどを確かめる立場になるので、それまでに出品の決まりへ入れてくると見ています。
出典
- Regulation (EU) 2024/2847(EUR-Lex):第3・13・14・64・69・71条
- 欧州委員会の手引き(2026年7月27日)と FAQ
- ENISA の単一報告窓口の案内と FAQ
- RFC 9116(security.txt)
Lesstep は JetBrains IDE のプラグイン(Azure DevOps Pull Requests、Pull Request Inbox for Bitbucket ほか)を作っています。このページは JetBrains・欧州委員会・ENISA のいずれとも関係がありません。